はじめに|リンパ浮腫を「起こさない」ための研究はとても重要です
リンパ浮腫は、がん治療を乗り越えた後に、長い人生に影響を及ぼす可能性がある慢性疾患です。
むくみ、重だるさ、痛み、感染(蜂窩織炎)などが起こると、日常生活の質(QOL)が大きく低下してしまいます。
そのため私たち医療者にとっても、
「リンパ浮腫をどう治療するか」だけでなく、「どうすれば予防できるのか」
を科学的に検証した研究はとても重要です。
今回は、婦人科がん手術後の下肢リンパ浮腫を対象に、
「セルフリンパドレナージ」に予防効果はあるのか?
を5年間にわたり前向きに検討した、信頼性の高い研究をご紹介します。
【ご紹介する論文について(患者さんご自身で読めます)】
論文タイトル
A prospective assessment of simple lymphatic drainage to prevent lower limb lymphedema in gynecological malignancies
掲載誌
Scientific Reports(Nature Portfolio)
発表年
2025年
筆頭著者 宇津木 久仁子 先生 ほか
論文URL(原文・英語)
https://doi.org/10.1038/s41598-025-26967-1
※オープンアクセス論文のため、患者さんご自身でも全文を読むことができます。
【この研究は「何を調べた研究」なのか?】
この研究では、
婦人科がんで骨盤リンパ節郭清を受けた患者さんを対象に、
・毎日「セルフリンパドレナージ(SLD)」を1年間行ったグループ
・特別なドレナージ指導を受けなかったグループ
を比較し、
5年間にわたって下肢リンパ浮腫がどのくらい起こったか
を前向きに観察しています。
特に重要なのは、
・圧迫療法を併用せず
・セルフリンパドレナージ「単独」の効果
を検証している点です。
【研究結果|セルフリンパドレナージ“だけ”では予防効果は示されませんでした】
研究の結果、
・下肢の太さ(周径)
・体内の水分バランス(インピーダンス法)
・リンパ浮腫の発症率(国際リンパ学会分類)
いずれにおいても、
👉 セルフリンパドレナージを毎日続けても、リンパ浮腫の発症を有意に減らすことはできませんでした。
5年間の累積リンパ浮腫発症率は
・セルフリンパドレナージ群:約37%
・対照群:約24%
であり、統計学的な有意差は認められていません。
【三原(むくみクリニック院長)からのコメント|この研究をどう考えるか】
私は、この論文は
「患者さんにとって、とても誠実な研究」
だと感じています。
なぜなら、
・「頑張って続ければ必ず防げる」とは言わず
・患者さんの負担になる可能性のあるセルフケアを
科学的に検証したうえで、効果の限界を正直に示している
からです。
セルフリンパドレナージ自体を否定する研究ではありませんが、
「それだけに頼る予防には限界がある」
という、とても大切なメッセージを伝えてくれています。
【当院(むくみクリニック)が大切にしている「予防」の考え方】
むくみクリニックでは、
リンパ浮腫の予防・重症化予防として、最も重要なのは体重コントロールだと考えています(他の論文参照)。
これは、私たち自身が日々、国内外の多数の医学論文を読み、
体重増加(特に肥満)がリンパ浮腫の発症・悪化リスクを高める
ことが一貫して示されているからです。
そのため当院では:
・体重コントロールを最重要の予防策としてご説明
必要に応じて
・管理栄養士指導アプリ 「あすけん」 を活用した生活改善
・アプリで十分な効果が得られない場合は
当院と連携する医療機関の肥満外来をご紹介し、医学的に安全な体重管理
を行っています。
このような医学的根拠に基づいた予防により、
リンパ浮腫の発症や重症化をできる限り抑えることを目指しています。
【当院の治療について】
私は、東京・代々木にあるリンパ浮腫治療専門「むくみクリニック」院長の三原誠です。
当院では、
・保存療法(圧迫療法・運動・生活指導など)
・リンパ管静脈吻合術(LVA:日帰り手術)
を、患者さん一人ひとりの状態に合わせて組み合わせる治療を行っています。
治療や手術の効果には個人差があり、
すべての方に同じ結果を保証するものではありませんが、
国内外の最新エビデンスをもとに、最も納得していただける選択肢をご一緒に考える
ことを大切にしています。
【研究紹介一覧について】
私どもが日々の診療や患者さんへの説明に活用している
リンパ浮腫に関する重要な研究論文の一覧は、
以下のページ下段にまとめて掲載しています。
🔗 https://www.mominoki-shinryosho.jp/lymphedema/
「なぜこの説明になるのか?」
「なぜこの治療方針なのか?」
を、患者さんご自身が確認できるよう、今後も情報公開を続けていきます。
【最後に|患者さんへ】
リンパ浮腫は、
正しい知識を知ることで、不安が小さくなる病気でもあります。
この論文紹介が、
「頑張りすぎなくていい予防」
「本当に大切なポイントを知るきっかけ」
になれば、私自身とても嬉しく思います。
不安や疑問があれば、いつでもご相談ください。
【よくあるご質問(FAQ)】
Q1.この論文は、どんな人を対象にした研究ですか?
A.
この研究は、婦人科がんの手術で骨盤リンパ節郭清を受けた患者さんを対象に行われています。
特に、術後に抗がん剤や放射線治療(補助療法)を受けていない比較的早期の患者さんに限定して、
下肢リンパ浮腫の「予防」に注目して5年間追跡した前向き研究です。
Q2.セルフリンパドレナージ(セルフマッサージ)は、やらなくてもいいということですか?
A.
「やらなくてよい」という意味ではありません。
この論文が示しているのは、
👉 セルフリンパドレナージ“だけ”でリンパ浮腫を確実に予防できる、とは言えなかった
という点です。
セルフリンパドレナージは、
・むくみの自覚を高める
_体の変化に気づきやすくなる
といった意味では役立つこともありますが、
それだけに頼る予防には限界があることが、この研究から示唆されています。
Q3.この研究では、どれくらいの期間、患者さんを追跡していますか?
A.
術後から5年間にわたって、毎年評価を行っています。
リンパ浮腫は数年経ってから出現することもあるため、
このような長期間の追跡研究は、とても価値が高いと考えられます。
Q4.なぜ「圧迫療法」を一緒に行わなかったのですか?
A.
この研究の目的は、
「セルフリンパドレナージ単独」に予防効果があるかどうか
をはっきりさせることでした。
圧迫療法を併用すると、
「どちらの効果かわからなくなる」ため、
あえて圧迫を行わない条件で検証されています。
Q5.では、リンパ浮腫の予防で一番大切なことは何ですか?
A.
むくみクリニックでは、
👉 体重コントロールこそが、最も重要な予防ポイント
だと考えています。
多くの研究で、
・体重増加
・肥満
がリンパ浮腫の発症や重症化リスクを高めることが示されています。
そのため当院では、
・生活習慣の見直し
・必要に応じて、管理栄養士指導アプリ 「あすけん」 の活用
・アプリで十分な効果が得られない場合は、肥満外来を行う連携医療機関への紹介
といった、医学的に安全で現実的な体重管理を大切にしています。
Q6.むくみクリニックでは、どのような治療を行っていますか?
A.
当院は、リンパ浮腫治療を専門とする医療機関です。
患者さんの状態に合わせて、
・保存療法(圧迫療法、運動、生活指導など)
・リンパ管静脈吻合術(LVA:日帰り手術)
を組み合わせた治療を行っています。
治療効果には個人差があり、
すべての方に同じ結果を保証するものではありませんが、
国内外の最新の医学的エビデンスをもとに、最適な選択肢を一緒に考えることを大切にしています。
Q7.この論文は、患者でも読むことができますか?
A.
はい、読むことができます。
この論文はオープンアクセスで公開されており、
患者さんご自身でも全文を確認できます。
論文リンク(英語)
https://doi.org/10.1038/s41598-025-26967-1
「なぜこの説明になるのか?」
を、ご自身で確かめたい方にもおすすめです。
Q8.他にも、むくみクリニックが参考にしている研究はありますか?
A.
はい。
私どもが日々の診療で参考にしている
リンパ浮腫に関する重要な研究論文の一覧は、
以下のページ下段にまとめています。
🔗 https://www.mominoki-shinryosho.jp/lymphedema/
患者さんが、
「納得して治療や予防に向き合えること」
を大切に、今後も情報を公開していきます。
Q9.自己判断でセルフケアをやめても大丈夫ですか?
A.
自己判断で中断・変更する前に、
必ず医師や専門医療者にご相談ください。
リンパ浮腫のリスクや状態は人によって大きく異なります。
「何を優先すべきか」は、
一人ひとり違うからこそ、専門的な評価が重要です。
Q10.相談だけでも受けられますか?
A.
はい、可能です。
むくみクリニックでは、
診断・治療だけでなく、予防や生活の不安に関するご相談も大切にしています。
「まだ治療が必要かわからない」
「予防として何をすればいいのか知りたい」
という段階でも、お気軽にご相談ください。