乳がん治療後に「手術した側の腕がむくむ」「腕や手が重だるい」「指輪や腕時計がきつくなった」「皮膚がつっぱる感じがする」といった変化がみられる場合は、リンパ浮腫の初期症状である可能性があります。
リンパ浮腫とは、リンパ液の流れが悪くなり、皮下組織にリンパ液がたまることで、腕や手などにむくみが生じる状態です。乳がんの手術でわきの下のリンパ節を切除した場合や、放射線治療でリンパの流れに影響を受けた場合に発症することがあります。
ただし、腕のむくみが必ずしもリンパ浮腫とは限らず、一時的なむくみや薬剤の影響、炎症、ほかの病気が原因のこともあります。むくみが続く場合は、早めに医療機関へ相談することが大切です。
乳がん治療後にリンパ浮腫が起こるのは、手術や放射線治療によって、リンパ液の通り道であるリンパ管やリンパ節に影響が及ぶことがあるためです。
乳がんの手術では、がんの広がりを確認するために、わきの下にあるリンパ節を必要に応じて切除することがあります。リンパ節を切除すると、腕から体の中心へ戻るリンパ液の流れが滞りやすくなり、手術した側の腕や手にむくみが出ることがあります。放射線治療を受けた場合も、照射された部位の皮膚やリンパ管などに変化が起こり、リンパの流れに影響することがあります。
リンパ浮腫は治療後すぐに起こるとは限らず、数か月後、数年後に腕のむくみや重だるさとして現れることもあります。
リンパ浮腫は、はじめのうちは見た目の変化がわかりにくく、「なんとなく腕が重い」といった感覚の変化として現れることもあります。早めに気づき、適切なケアや治療につなげることが大切です。
乳がん治療後、手術した側の腕や手に次のような変化がみられる場合は、リンパ浮腫の可能性があります。
朝は軽く夕方に強くなるなど、時間帯によって変化することもあります。症状の出方には個人差があり、見た目だけでは判断しにくい場合もあります。
次のような習慣をつけておくと、変化に気づきやすくなります。
セルフチェックは変化に気づくための目安であり、リンパ浮腫かどうかをご自身で判断することはできません。気になる変化がある場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
早めに気づいて適切なケアや治療につなげることで、症状の進行を抑えられる可能性があります。迷ったときは自己判断で様子を見続けず、早めに医療機関へ相談することをおすすめします。
次のような状態がみられる場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
症状が軽いうちに受診し、状態に合ったケアや治療について相談することが大切です。
腕のむくみに加えて、次のような症状がある場合は、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの感染症を起こしている可能性があります。できるだけ早く医療機関を受診してください。
リンパ浮腫のある腕は細菌感染を起こしやすく、くり返すとむくみが悪化することもあります。
まずは、乳がんの治療を受けた医療機関の主治医や乳腺外科に相談するとよいでしょう。医療機関によっては、リンパ浮腫外来を設けているところもあります。より専門的な診療を希望する場合は、形成外科や血管外科、リンパ浮腫専門クリニックなどが相談先になります。
ここで紹介するのは発症のリスクを下げるための工夫であり、これらを行えば確実に防げるというものではありません。自己判断だけで進めず、気になる点は主治医に相談しながら取り入れましょう。
皮膚を清潔に保ち、乾燥から守るスキンケアを心がけましょう。
体を動かすことは、リンパ液の流れを助けます。ウォーキングなど無理のない範囲の運動を取り入れるとよいでしょう。ただし、急に激しい運動を始めることは症状を悪化させる恐れがあるため、運動の種類や強さは主治医に相談すると安心です。
肥満はリンパ浮腫を発症するきっかけになることがあるため、適正な体重を保つことも予防につながります。あわせて、きつい下着や衣類、アクセサリーなどで、手術した側の腕を強く締め付けないようにしましょう。
「リンパを流す」といった自己流のマッサージや、リラクゼーション店などで受ける一般のマッサージは、リンパ浮腫の予防や治療に効果はなく、むしろ症状を悪化させることがあるため避けましょう。治療として行われる「リンパドレナージ」は、医師の指示のもとで訓練を受けた医療従事者が行うもので、一般のマッサージとは異なります。
リンパ浮腫の治療は大きく、「保存的治療(非外科的治療)」と「外科的治療」の2つに分けられます。どの治療が適しているかは、症状の程度や経過によって異なるため、医師の診察を受けて方針を決めることが大切です。
治療の中心となるのは、保存的治療やリハビリテーションです。リンパの流れを促し、むくみの悪化を防ぐことを目的に、次のようなケアを組み合わせて実施します。
これらを体系的に組み合わせたものは「複合的治療(複合的理学療法/CDT)」と呼ばれ、標準的な治療とされています。自己流ではなく専門の医療従事者の指導のもとで、継続して取り組むことが大切です。
保存的治療で十分な改善が得られない場合などには、外科的治療が検討されることもあります。外科的治療には、リンパの流れそのものを改善する「再建系治療」と、増えてしまった組織を減らす「切除系治療」があります。
再建系治療には、細いリンパ管と静脈をつなぐリンパ管静脈吻合術(LVA)やリンパ管移植などがあります。切除系治療には脂肪吸引や脂肪切除などがあり、厚くなった組織を減らすことで症状の軽減を図ります。
近年は、とくにLVAが有効な治療法として注目されており、リンパ浮腫の比較的早い段階で行うことで、より高い効果が期待できるとされています。
必ず起こるわけではありません。わきの下のリンパ節を多く切除した場合や、放射線治療を受けた場合などに起こりやすいとされていますが、手術を受けた方すべてに発症するわけではありません。
手術でリンパ節を切除した場合、手術の直後に起こることもあれば、何年も経ってから起こることもあります。治療後は、腕の状態の変化に気づけるよう、日ごろからセルフチェックを習慣にしておくと安心です。
リンパ浮腫は、手術でリンパ節を切除した側や、放射線治療を受けた側の腕に起こるのが一般的です。反対側の腕に同じように起こることは多くありませんが、気になるむくみがある場合は、左右どちらであっても主治医に相談しましょう。
完治は難しいとされていますが、「治らない=何もできない」ということではありません。圧迫療法やスキンケアなどの治療を続けることで、むくみを軽減したり悪化を防いだりしながら、症状をコントロールしていくことが期待できます。
日常的に腕を使うこと自体を、過度に避ける必要はありません。ただし、急に重いものを持つなど、腕に大きな負担がかかることは控えめにするとよいでしょう。不安な場合は、主治医に相談すると安心です。
乳がん治療後に起こるリンパ浮腫は、腕や手のむくみ、重だるさ、つっぱり感、指輪や袖口のきつさといった変化から始まることが少なくありません。完治は難しいとされていますが、早い段階で気づき、適切な治療やセルフケアを続けることで、症状の悪化を防ぎながらコントロールしていくことが可能です。
腕のむくみや重だるさが続く場合や、皮膚の赤み・熱感・発熱をともなう場合は、様子を見続けずに医療機関で相談することをおすすめします。
監修:三原 誠・原尚子・岩永洋平
むくみクリニック/形成外科専門医
リンパ浮腫に対する保存療法、リンパ管静脈吻合術(LVA)、リンパ管エコーを組み合わせた診療を行っています。